病院に通いながら、体調を気遣い詩を詠み続けておられる前向きなHさんの気力にはいつも頭が下がります。視力、視野は十分でないが手術が終わって安定しており点眼のみで滅多にお会いできませんが文通は続いています。先日彼女の友人が受診され、「Hさんは若い時から頭がよく何事にも前向きで素敵な方」と話されましたが、病気に打ち勝つ気力や日々記される詩を拝見しているとその通りだと納得できます。少なくともあと10年、100歳までは元気でいてほしいと思います。
毎月必ず1-2通の便りが寄せられますが、私が元気な間は続けたいと思っています。
母は晩年俳画を嗜んでいましたが、Hさん同様に切り抜きなどしていたのを思い出します。
定期便のように届けてくださる便りには必ず1ページ詩が記されているので楽しみです。今回お預かりした2冊の記録帳の中から一部ですが皆様にご紹介したいと思います。Hさんの前向きに生きる姿勢と日々の心情が素直に表現されており心打つ詩が多々あります。
(平成19年のノートより)
ジョギングに行きたるわれのポッケから わらび三本干乾びて出で
久々に逢えたよろこび高ぶりの 残る余韻に暫し身を置く
幾千字書いたであろう母の字を 今宵書き見む熱き心で
雨もよし部屋に籠りて無我の境 工夫めぐらせ切り絵に遊ぶ
若葉萌ゆ小鳥の囀り玉笑う 歩ける我も笑い弾ませ
坂の道佇み眺む四方の山 花移ろいて緑葉の清(すが)し
よき事の聞ける心地す窓外に くり返し鳴く鶯の声
覗き得ぬところに心遊ばせて 我が常識を笑いで飛ばす
敬老と祝って呉れる孫達の 宅配届き柔和に笑めり
岩かげにひっそりと咲く春蘭の 咲いて昔をわれに囁やき
一周忌法要終えし同胞の 遺影に残る健やかな笑み
葉ざくらの揺れる峠の野仏に 誰か供えむ笹だんご二個
軽やかにぺタルを踏みし学生は ハーブの香り残して行きぬ
ゆきずりの人に問はるる花の名は のうぜんかずら思い出の花
手鏡に覗く老顔変らねど 明るく笑みて一と日に望まむ
知っている限りの歌を口ずさみ 通院帰り歌が道連れ
1年に2,3冊できるのでしょうか、詩に合わせ感想や心情が細やかに記されています。
ご趣味とはいえ、とても真似ができない作品作りにただただ感心いたします。
(平成24年のノートより)
寝付かれず薬缶湯の音体拭く (朝日新聞 柳壇入選作)
来た曾孫まんまん様に詣ろうと 婆の手を引き仏前に座す
釈迦仏のご降誕日に生まれし孫も 四才の娘の親父と成りぬ
土手に咲くたんぽぽ綿毛撫づる杖 名のみの風は何処に運ぶや
生きるとは目標何に定めむや 一と日一と日に感謝忘れず
消しゴムでこすればスーッと消えるなら 今宵の想いそっと消したし
買い物に出るが何かと聞き呉れる 心優しき言葉の嬉し
逢えもせず声も聞けない友情に 語る留守電言葉の侘し
雨降りてこたつの中で聞く立夏 老と病は季節を追わず
ホタル籠編みて日暮れを待つ夫と 新婚時代ふと浮かび来る
里の海茜に染まる夕波の 残像強く胸に留まる
恋文も灰に成りたる朝の庭 老いと病持つ婆の想い出
同郷の友との別れ哀しくて 声枯れる迄泣ける幸せ
Hさんの体調が安定し余生が平安であることを祈念する者です。 (T、A)